第10話 この世はでっかいお宝島
「今日はいい天気だ」
真人は原付のヘルメットを取って呟いた。本日は快晴。見上げる空には雲ひとつない。
「さて、一仕事終えて、さっさと戻りましょうかね」
原付のキックを蹴り、エンジンをかけた。
「ただいま戻りました~」
「あぁ、真人くんお帰り」
真人はオーダーの寿司を配達し終えたところだ。今日届けたのは、二人前の特上寿司。
「まったく、昼食に特上の寿司を食いたいなんて人が大成するのかね」
その逆で、大成したからかもしれない。真人が届けた先は、Fビル勤務の代表だった。受付嬢がそういって内線を繋いでいた。一人で二人前を食べるのだろうか。
「まぁまぁ。そんな人あっての商売な訳だしさ」
真人を出迎えてくれた寿司屋の奥さんは、テーブルに座って真人にお茶をすすめた。
真人のアルバイト先の寿司屋は個人経営で、大将と奥さんが切り盛りしている。手先が不器用な真人は、配達係と雑用というわけだ。
「そうですね、めったな事は言っちゃいけませんね」
真人はそう言って、湯気が立つ緑茶を一口すすった。手にしている湯飲みに、茶柱が立っていたとは知らずに。
「ねぇマサト~。何だかキャラちがくな~い?」
こちらは真人の家に居候しているエリハ。ちゃぶ台の前で紅茶を楽しんでいる。白いコーヒーカップから立つ湯気が、なんともブルジョワだ。ちなみに、これは渋谷区にお住まいのSさんから、エリハがオークションで勝手に購入したものだ。どうやら結婚式の贈答品らしい。
「あ、ジャム入れなきゃ」
冷蔵庫を開けるエリハ。
「そうでもないぞ。もともと好青年で通っているからな」
ずずっと、お茶をすする真人。当初の設定ではニート有力候補生の学生だったが、強烈なボケキャラの出現により、ツッコミに徹するが故の更生としている。もとより、そんなに考えて書いてはいないのだよ。
「俺って、曖昧な人間なんだな…」
そんなに気落ちするな。変に出る杭は打たれるから。それって消極的か?
「マサト~、ジャムないよ~」
「没個性、か…」
「ねぇ~マサト~。ジャムないの~?」
六畳の部屋でたそがれる青年。ちゃぶ台の前で湯飲みを抱える姿には、年相応さが感じられない。おじさんになったら、哀愁を感じるだろうよ。
エリハは部屋を出て行った。マサトの財布を持って。
「母さん、元気してるかなぁ…」
本当に好青年キャラになりつつある。
えてして、実家を飛び出してきたような子は、時々故郷に思いを馳せることがある。センチメンタリストでなくとも然り。かく言う私も、なんだな。
ピンポーン
真人の脳内思い出のアルバムは、不意の呼び出しベルで閉じられた。
「はーい、今出ます」
ドアを開けると、配達員の方。最近は、エリハのせいでよくこの方と顔を合わす事になる。ネームプレイトに『相沢』と書かれている。
いつもすみませんというやり取りの後、サインを済ませ荷物を受け取る。セールスドライバーも大変な仕事なんだなと思う真人。
受け取った荷物はとても大きく、横幅は真人の二人分くらいありそうだ。
届く荷物のせいで、部屋は日に日に狭くなっている気がする。エリハが寝る場所を確保するため、真人はベットを追われ、押入れで寝る羽目になっている。未来のタヌキ型ロボットだって遠慮してるのに。
「今日は何が届いたやら」
ガムテープを引っぺがし、中身を見る。
そして真人は、驚愕した。
to be continued
